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株式会社スズキスポーツ社長・田嶋伸博氏インタビュー

WRCに向けて、勝負の時

WRCは市販車をベースに行うモータースポーツの頂点です。クローズドサーキットの競技はF1を筆頭に多々ありますが、これらは全てスペシャルなレーシン グカーで戦う競技です。我々が挑戦するWRCは、生産台数25,000台以上の市販車をベースに、限られた改造範囲の中で、モンテカルロのアイスバーン、 スウェーデンのマイナス30度になる雪の中、そしてギリシャのような30度、40度、車内は60度にもなる猛暑といった、ありとあらゆる自然環境・過酷な 条件の中で競い合い、勝ち残った者が世界チャンピオンというタイトルを得られるわけです。
やる以上、受けた以上、何が何でも勝ちますよ。ただ「言うは易し、行うは難し……」です。簡単にいくとは思っていません。やはりスタッフ、そして世界の多くの皆様に応援して頂いて、サポートして頂いて、実現に向かっていきたいと思います。

SX4の潜在能力(ポテンシャル)

SX4はまず、ボディー剛性が非常に優れています。このクラスでは群を抜いて、しっかりとしたボディーだと思います。それともう一つは、クルマの安定性を確保するために、大きいサイズのタイヤが標準でついているので、タイヤが上下するためのストローク量が市販車に十分盛り込まれている事です。WRC車両を開発する時に、タイヤの上下するスペースが確保されていると、サスペンションのストロークが大きく取れるので、例えば大きなジャンプ後の接地性や、悪路でのギャップの走破性、そういった部分でとても有利になっています。
それと、専門的に言うとフロントのピラーの傾斜角が倒れているものですから、ロールケージを装着するに当たり、このピラーに沿って下ろしていきますと、丁度フロントのサスペンションのトップマウントにストレートに入ってきます。そうしますと、フロントのサスペンションからの入力をトップマウントからロールケージを通じて、その入力を分散してボディー全体で受ける事が出来るので、ロールケージのデザインは大変良くなりました。
そういう意味では、SX4のボディーはWRカーを製作するのにうってつけだと思います。

「コンパクト」という優位性

SX4とライバル車を比較したとき、SX4の持つ優位性はボディーが「コンパクト」なことと、オーバーハングが短いことだと思います。SX4が一回り小さいということを、WRC16戦全部見たときに、本当にハイスピードのコースの場合は、大きなボディーの方が操安性がよく、我々よりも若干有利であるかもしれないですが、ラリーの場合、平均速度が大体100km位で勝負する事が率としては高いものですから、100キロ前後では、やはりコーナリングが主体になる訳で、SX4は全長が短いため、レギュレーション上トレッドが30mm狭くなるというコンパクトさを逆に活かしてコーナリングでうまく稼ぎ、トータルのタイムでも、彼らと充分戦う事が出来ると考えています。

SX4 WRCの具体的な改造点

ボディー

レギュレーションで最低重量が決まっています。ボディーシェル(ホワイトボディー)に安全面を組み込んだ状態で、320キロ内という規則があります。今の 市販車は、元々とても大きな補強材が入っていますから、かなり軽量化する必要がある。その時に材質の変更や厚みの変更というのはほとんど出来ません。する と後は取るしかないので、ボディーからまず不要なブラケットだとか、色々な物を取り外して最低限必要な物だけを残し、安全面と剛性・強度の為に、決められ たパイプを溶接して組み込みます。ですから、ロールケージという、本当にパイプだらけで安全かつ剛性があり、重量もレギュレーションのギリギリの所に持っ ていくということがボディーシェルの最初の作業ですね。

エンジンと4WD

SX4のベースになるエンジンは自然吸気・4気筒の2リッターです。我々はそれをレギュレーションの範囲でターボチャージャーを付けて、ボア・ストロークを変更して、一番低速から大きなトルクが出て、そして高速までフラットなトルクを引っ張り出すようなチューニングをしています。ターボチャージャーは、レギュレーションによって空気の流入制限がされています。ですから、いくらでも空気が入るという事ではなくて、ある程度以上ターボチャージャーの回転速度が上がって吸引量が増えていくと結局真空になるんです。そうしますと、いくらターボチャージャーが吸おうとしても真空状態で入らなくなります。ですから真空になるまでの間にいかにトルクを稼ぐかというのが、WRカーのエンジンに対する、最も大事な要求です。
それから四輪駆動。これもWRカーは4WDが認められております。そしてレギュレーション上認められているのは、4輪駆動のギヤボックスを入れるために、フロアパネルをカットして良い。それからエンジン部分と車体の間にある隔壁、これもカットして良い。それから床もですね、プロペラシャフトを通す為にトンネルを作って良いと。後ろには、別途ディファレンシャルを乗せますので、それ用にスペースを確保するための大幅な改造が認められています。さらに普通の FF(前輪駆動)と違ってデフがつき、リヤも同じくストラットタイプのサスペンションを取り付けて良いという事で、その辺の大きな改造もレギュレーションで認められています。つまりSX4 WRCは、フロントのエンジン、4WDをベースに、レギュレーションで許される改造を盛り込んだ特別なギヤボックス・プロペラシャフト・デファレンシャルを付けています。

エアロダイナミクス

空力については、どこのメーカー、チームも風洞実験装置を使って性能アップを目指しています。空力の性能アップというと、実際には幾つかの要求があります。あまり語られないのは冷却です。冷却性能をいかに効率よく出すかという事で、冷却性能を向上させながらも、なおかつ車がダウンフォース、前後で出来るだけ地面に密着するように、空気を使って押し付けていくと。冷却とこのダウンフォースと、それから前後のバランスとそして、それを満たしながらも、空気抵抗、これをいかに下げるか。ですから多くの要求を空力の中にもっていますので、風洞実験装置で数多いテストをしながら、最大の効果のある車の型、それから空力のデバイスを開発しています。

今後の開発スケジュール

競技車の場合、もの凄く重要なのは、一番最初にレイアウトやその車のポテンシャルを決める大きな仕様決定。これを間違えてしまうと、後で二進も三進もいかなくなってしまいます。
ですから、まずWRCの改造が許される範囲で、目一杯理想値に振って作りました。これが上手く機能するか、考え方に間違いが無いかという事を今検討しています。
これがハッキリした時点から、次の段階は耐久性、本当に車が壊れないか。
それともう一つは、実際に走らせた時の整備性、メンテナンス性。ご存知の通りWRCは3日間の競技を、非常に長い距離、しかも僅かなサービスタイムで進めなくてはいけないという事で、例えば何かが壊れた時、僅かな時間で確実に交換、整備、修理ができるという事が非常に重要になるものですから、その検証、精査をする必要があり、今ちょうど両方に足がかかる段階です。
まだ開発の初期の段階ですから、全て国内でやります。
ヨーロッパの人に乗ってもらっても良いと、納得できるレベルになるまでは全て日本で、多くはスズキのテストコースで行っておりますし、これからも続けます。
大体の目処ですけれども、今の思惑で言いますと、年内ギリギリか年明けには、ヨーロッパに行って、今度は本格的な「勝てる仕様」へのチューニングに入ると思います。それまでは国内ですべての問題の洗い出し、対応・対策を行っています。
実はサプライズがあるんです。このインタビューが出るころにはもう発表していると思いますが、テクニカルマネージャーにミシェル・ナンダン、チーフデザイナーにニノ・フリソンをチームに迎えました。
このWRCプロジェクトを進めるにあたり、ヨーロッパのエンジニアの中でミシェルさんが最も適任だと判断しました。これまでトヨタ、プジョーなどで活躍しており、その豊富な経験を活かしてもらいたいと思います。彼を超える人材は他にいません。私と相性が合いますし、人間性、勝つことへのこだわり、経験、発想に優れています。また、フランスには多くのサプライヤーがいるので、彼をヨーロッパでの窓口としてコミュニケーションを良くしていただきたい。FIA本部がパリにあるので、FIAとのコミュニケーション面でも力になってもらえると期待しています。
ニノさんも、WRC、F1、DTMなど幅広くトップカテゴリーでの経験があります。特に彼のモノづくりでの経験をとても評価しています。溶接技術や加工技術は日本人が得意とする技能だったはずなんですけどね。また技術だけではなくWRCを熟知していますから、FIAのレギュレーションの範囲でどうするのが最良の方法か、そのアドバイスはとても重要です。新しくWRカーを製作する上で彼の経験・技術が必要だと判断して起用しました。
彼らの力も借りて、出来るだけ早くSX4 WRCを世界一のWRCマシンに仕上げたいと思います。我々の経験と彼らの経験を融合すれば、間違いなく最強のマシンを仕立てられます。そのためには、とてもハードワークになりますが、体調に気をつけながら頑張って欲しいと思います。

ミシェル・ナンダン
テクニカル・マネージャー

出身地 /
モナコ、モンテカルロ

生年月日 /
1958年4月5日

ニノ・フリソン
チーフ・デザイナー

出身地 /
イタリア、ヴィチェンツァ

生年月日 /
1960年12月23日