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本田チーフエンジニアに聞くラリーベース車としてのSX4の可能性

オリンパス・ラリーで感じた「異次元」の領域

オリンパス・ラリーでの勇姿 カルタスGT-i

本田:
20年以上前になりますが、当時WRCのひとつだった「オリンパス・ラリー」にカルタスが出場したことがあります。私は電装を担当しました。なにしろ全てが手探りの状態でした。ただ、その時に感じたことで、今思い出すことがふたつあります。ひとつは、あの時、ラリーの途中で足回りがつぶれてしまって、当時はそれほど思わなかったのですが、今にして思えば、基本的なところで走るという意味においてまだ弱さを持っていた。クルマの素性という意味で、まだまだ考えなければいけない点があったな、と、今にして強く思います。
ふたつめには、ヨーロッパから来たマシンなどを見ると、全く違うクルマなんですね。クルマ全体が研ぎ澄まされている。多くの人たちがいろいろ手をかけてきて、レースの場でずっと鍛えられてきている。排気音ひとつ聞いても、その人たちの気持ちが吹き込まれた「生きもの」みたいに感じましたね。異次元だなと思いました。この時の衝撃が、今回SX4でWRCに参戦するにあたっても、そういう方向に何とかしていきたいという気持ちにつながっています。

SX4の開発コンセプトと「イージー・ドライブ」

本田:
そもそもSX4の設計ではまず、クルマの基本をしっかり作ろうと考えました。基本というのは、まず走るための道具ということを考えると、しっかりとした足回りとそれに負けないボディーです。足回りについてはアウトドアでも十分お客様に満足いただけるように、大きなタイヤを履いてストロークもたっぷりとりました。そして足回りの取り付け部分を含め、ボディー剛性を飛躍的に高めました。こういったコンセプトは、ラリーという競技においても非常に活きると思っています。
つまり、お客様が普通につかう生産車の場合でも、レースという極限を追求する場合でも、基本の「性格」とか「素性」が良いものを作るということ、結局、クルマとしての基本を追求していくと、それがレースでも活きるんだということで、最終的には目的は一致するんですね。 たとえば、競技用車両だからといって、非常に複雑で難しい運転が要求される、という考えは間違っていて、逆に「イージードライブ」なクルマでないと勝てないんだということを聞いています。これはある意味、「目からウロコ」ではないでしょうか。気難しいクルマではなく、ラリードライバーの技量を最大限発揮できるような、「素直」で「イージードライブ」のできるクルマに、SX4を仕上げていくことをスズキスポーツと協力して狙っています。

本田:
今回SX4を開発するときに、スズキのこれまでのボディーに対する考え方を大きく変えました。というのは、いくら足回りをやっても、ボディーをしっかり作らないことには、やはりクルマトータルの操縦性能などは出ないだろうと。ですから、例えば従来と比較して、3%、5%ボディー剛性を上げました、というオーダーではなく、何十%もあげる、というような。

佐々木(実):
SX4のボディーを設計したときに、留意点がふたつありました。ひとつはしっかりした骨格を作り、車体全体の剛性を上げていく。その結果、全体の曲げ剛性とか、ねじりの剛性が、従来のオーダーから50%以上あがっています。 さらにSX4はかなり大きなタイヤを履いていますので、タイヤが上下するためのストローク量もたっぷりとっています。その足回りに負けないようなボディーを作ること。特に前後の足回りの取り付け部分の剛性を上げることに留意しました。

本田:
実験部から横剛性の目標値が出てきて、シミュレーションで目標値を達成するまで図面はフィックスしない。そうやって、生産車としての基本をしっかり作る、ということをやりました。図面を出す時期が来ていても、中途半端なかたちで出せないということで、あえて3週間から4週間多めに時間をかけて、ちゃんと狙った数値がでるボディーにしていく。よく鍛えられた欧州ライバル車の操縦性、つまり安定しながらもドライバーの意思に正確に反応する素直さ。そういった要素について、実際に走ってみるだけではなく、そのボディー強度はどれくらいの強さがあるのかということを数値で調べていきました。

佐々木(実):
SX4のボディーは、欧州車のライバルたちに決して負けない数値を出していると思います。

本田:
ボディー剛性の強さは、大きな武器になります。ラリーは様々な路面を激しく走りますので、サスペンションが非常に大事になってきますが、土台となる車体がしっかりしていないと、いくら足回りをチューニングしても、車体のほうにブレがあってはトータルの性能が出せません。ベースとなるボディーがしっかりしていて、そこにさらに補強のパイプ類をいれた上で、そこに例えばAというスペックをつけるとAという運転性能が出るだろう。Bというスペックを付けるとBという性能が出るだろうというように、関連性がきちんと出るボディーである必要があるわけです。例えば、Aという性能が出るだろうと思って、Aというものを付けたけれど、実際出てきた結果はBだった、となるとこれはいいラリー車にはならないわけですね。そういう意味では、まず生産車のボディー剛性が高いということは、必須条件ですね。

J20型エンジンの素性

本田:
SX4に搭載されているJ20型エンジンは、軽量化を意図して作ったエンジンであることなど、いろいろな点で、競技用のエンジンとして、素性のよいエンジンだと思います。

佐々木(貴):
そうですね。J-20Aは生産を開始してから10年がたち、その間にも毎年改良を加えてきていて、今、信頼性も非常にあがっています。もちろん量産エンジンとしての話だけではなく、実際ラリー車となりますと3倍のトルクに耐えるためにクランク廻りなど、剛性の強化をする必要がありますが、そういった補強を許容するといいますか、入れられるような質のいいエンジンになっていると思います。

本田:
ラリーは、様々なシチュエーションで走る。加減速が多いので、例えば絶対的なピークパワーだけじゃなく、途中の過程が非常に重要になってきます。そういう意味では最近のラリー車のエンジンは、圧縮比をあまり下げない状態でターボ化する、そのバランス、つまりある一点の出力だけではなく、グッと踏んだときにグッと引っ張っていくとか、あるいは回転が低いところでも十分に力を出していくとか、そういったところを一生懸命やっています。

佐々木(貴):
やはりドライバーがいいエンジンだなと思うのは、ドライバーの要求に対して応えてくれるものだと。J-20Aはその辺に優れていると思います。

「スズキとスズキスポーツは、一心同体で開発を進めていく」

本田:
先ほども言いましたが、競技用車両としても「イージードライブ」なクルマが求められている、そういったことも含めて、スズキとしては、しっかりとしたベースを作るということで、今まで話してきたとおり、車体からエンジンを中心にやっています。それをベースに実際の競技車両を作る、あるいは実際のレースに出て、その現場のオペレーションについては、一緒にやってきてもらっているスズキスポーツに分担してもらう。長い間そうやってきて、JWRCも非常にいい結果を出したし、今、順調に開発も進んでいますので、体制面ではその形ですね。ラリー車はあくまで市販車のボディーを使ってやりますので、そういったものがスズキ側からスムーズに供給できて、スズキスポーツでの開発作業がスムーズに進む、ということを我々が最大限分担してやっていくということですね。
もちろん、このWRCのプロジェクトトータルでは、いつから実際のレースに出るか、あるいは、どういったかたちで世界のお客様あるいはマスコミにPRしていくかというのは、これは今後スズキの商品を世界で展開していく上で、トータルで一番効果が出るものにする必要がありますから、そういう意味でレース活動のタイミング、あるいはやり方そのものはスズキ自身の意思とコントロールで進めていく。その中でスズキスポーツにも同じ歩調で歩いていただく。スズキとスズキスポーツというのは仕事だけじゃなく、会社としてももっと緊密な関係にして、ほぼ一心同体でやっていきます。

挑戦するスピリット」をはっきりとしたカタチに

本田:
これからスズキが世界でやっていく上で、「挑戦するスピリット」、これをもっとはっきりとしたカタチにしていきたい。一人一人の技術者にもそういうスピリットがある、いうことを出していく、そしてWRCのプロジェクトを通じて、今後のスズキの商品をまた面白いものにしていく。「面白い」というのは、お客さまが乗って、「あ、スズキの商品は、何か違う」 と感じること。乗ってみて非常に気持ちのいい走りだとか、性能だけじゃなくて、見た目でもスポーティーさとか、何かにチャレンジする気持ちが出たカタチになっている。そういうところがお客様に面白く思ってもらえるということになる。それが、技術部門として私がこの仕事をやる大きな責任かな、というふうに思っています。

本田 治 (四輪技術部門 パワートレーン担当 兼 商品第六カーラインチーフエンジニア)
佐々木 実 (車体設計部 小型車・SUVグループ)
佐々木 貴光 (エンジン設計 第四グループ)