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アルゼンチン奮闘記 〜 雨と熱気とスーパーラリー 〜

今回のラリー・アルゼンティーナではシェイクダウン前日の未明から大雨が降り、パドック中が水浸しになったほか、ステージの随所に仕組まれているウォータースプラッシュもずいぶん立派な水溜りになっていて、飛び込んでゆくラリーカーにとってはちょっとした水難。でも泥水がかかるような至近距離にも観客が大勢つめかけていました。なかでもギャラリーの熱気を強く感じるのはデイ3のクラシカルな山岳ステージ。ごつごつ張り出した岩の上に思い思いに陣取っている人々の多くは2日前くらいからキャンプをしながらラリーカーを待ち構えているのです。
一方、サービスパークでは、走っているマシンこそ見ることができませんが、手の届くところでチームの作業を見ることが出来ます。アルゼンチンではこの通り、大勢のギャラリーがスズキ・ワールドチームを応援しに来てくれました。サービスパーク内を歩いていたらピレリのキャンペーンガール達と遭遇。カメラを向けたら素敵な笑顔で応えてくれました。


ここで、今回チームにとって救いとなり、また徹夜の原因ともなった「スーパーラリー制度」をご紹介します。デイ1・デイ2の途中でマシンにトラブルが発生したりクラッシュして走行できなくなったりしても即リタイアということにはならず、その日内に決められたサービス時間以内で修理できれば、次のデイのスタートからリスタート(再出走)できるという仕組みが「スーパーラリー制度」です。走行していないSSの分だけペナルティがつく※1ため、午前中早々に走行できなくなってしまって何個ものSSを走れなかった場合などはトップから数十分遅れという扱いになり、上のほうの順位を狙うことが難しくなります。それでもチームにとっては3日間の競技日をフルに走るチャンスが得られるので、どのチームのメカニックたちも車両がリスタートできる可能性がある限り最大限の努力をします。作業はサービスパークのテントで行わなければなりません。他の場所で作業が行われないよう、ストップした車両はその地点でコース委員長の許可を得るまで待ち、許可が降り次第サービスパークのパルクフェルメ(車両保管区域)まで直送されます。パルクフェルメに入った車両は不正な修理がされないように現状のチェックが行われ、それからチームのテントに戻されます。作業できる時間は最大3時間。また、パルクフェルメに車を入れる期限は翌日のスタートの4時間前と決まっています。
今回のラリーではロードセクションの道路状況が悪くてリタイアした車両の搬送がままならず、ようやくサービスパークに帰ってきた車両を修理する時間がその期限に間に合うように取れないという事態になったため、主催者が特例的にサービス時間を設けてくれました。その結果、疲労困憊しているクルーが睡眠をとって翌日に備える一方でメカニックとエンジニアは眠れない夜を過ごすことに…。


修復作業で使用できるスペア部品などには細かい規定が設けられています。例えば、エンジンブロックとボディシェルの交換は許されていません。禁止されている部品についてはラリーのはじめの車検でシールされた部品以外を使ってしまうとペナルティが課されてしまうので、エンジントラブルでリタイアしてしまうとスーパーラリーでの復帰は不可能です。さらにエンジンの交換を厳しくしているのがエンジン開発とエンジン数の制限です。まず、年初のモンテカルロ前に登録された部品や仕様※2はその後の年間のイベントを通じて改良が許されていません。さらに、今年のレギュレーションではマニュファクチャラーが1年間に使ってよいエンジンは1車両あたり最大5基(#11トニ選手と#12P-G選手の車両にそれぞれ5基ずつ使える)とされています。年間のラリーは15戦あるので5基のエンジンを全て使うとすると3戦で1エンジンを使うことになり、1年間で3戦の組み合わせ(通称「リンク」)が5組できます。リンクの内容は年の初めにFIAに提出しており、そのリンクを後から勝手に変えることは出来ません。リンクは部分的にレギュレーションで決められているため、あまり自由ではありません※3。リンクの1番目のラリーの車検のときにエンジンにシーリングが施され、そのリンクの2番目と3番目のラリーにもそのシーリングのエンジンで参加することになります※4。今回、ラリー・アルゼンティーナの直前にモータースポーツ・ワールドカウンシル※5で「新規参加チームにはペナルティ無しでエンジン2基やその他のスペアパーツの追加使用を認める」という決定がなされ、スズキ・ワールドラリーチームは少しだけ余裕を持ってエンジンを使えることになりました。とはいえ、エンジンの内部に大きな改良を加えることはできないため今後も悔しい事態に直面する事があると思いますが、チーム一同、来年以降に向けて開発を進めてゆきます!


※1. 各ステージの一番早かったドライバーの5分落ちのタイムが計上される。その日の最終ステージを終えてからリタイアする場合、仮にそのステージを無事走り終えていても、走りきれなかったものとして扱われる。一回のラリーの中で初めてリタイアするタイミングがデイの最終ステージだった場合、10分のペナルティが課される。

※2. 具体的には、バルブ・ピストン・バルブスプリング・カムシャフト・レース仕様のシリンダーヘッド・附則J項に定められた範囲内で改造されたエンジンブロック・ホモロゲ取得済みのパーツ全般・誤差範囲以内の圧縮比は規定値となる。

※3. モンテカルロースウェーデン、ヨルダンーイタリア、ギリシャートルコ、ニュージーランドーフランスの5つの組が設定され、各組について同一シャシー・エンジンを使って走るようにとレギュレーションで定められており、これを「エンジン/シャシーペアリング」と称している。シャシーはマニュファクチャラー1チームあたり年間最大10台分使える。他にも、トランスミッションとスペアパーツについてもアルゼンチンーメキシコ、ヨルダンーイタリア、ギリシャートルコ、スペインーフランス、日本―GBというペアリングが定められている。

※4. シーリングを破ってよいのは1)車検委員の監視の下、オイルパンを交換するとき、2)リンクの1番目か2番目のラリーを完走できなかったとき(そのリンク内の次のラリーに参加するときに使う新たなエンジンはシーリングされ、そのリンクの最後までやぶってはならない。)、3)前にマニュファクチャラーが使用したエンジンでいまだにシールされているエンジンを使ったとき、の3パターン。もしも不正に破られているのが見つかったら5分のペナルティが付く。なお、 車検とラリースタートの間にエンジンにトラブルがあった場合のみスペアエンジンへの交換が許されているが、それがリンクの2番目・3番目のラリーのときだと5分間のペナルティがつく。もしもリンクの1番目のラリーのときであればペナルティはつかない。ラリー・メキシコでシトロエンのローブのエンジン交換でひと悶着あったのはこのレギュレーションの解釈。なお、ラリーが始まってしまった後のエンジン交換は一切許されていない。

※5. WRCなどFIAが管轄しているモータースポーツの各種選手権に関する評議会。レギュレーションの解釈や変更はワールドカウンシルが司る。


 

 

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